大学を卒業して国税局に入ると、人生で初めて正社員的な環境で働くことになります。そのとき、それまでやっていたアルバイトが如何に劣悪な環境だったかを知りました。
就職すると、ボールペンや付箋、罫紙、修正テープ、ステープラー、ファイルなど、文房具が好きなだけ使えるのです。
与えられた机も巨大です。チワワなら3匹くらいは入りそうな引き出しがあり、机上は広く、どんなに六法や申告書を広げても円滑な事務作業ができます。コピーも取り放題、印刷もし放題、自由に使えます。もちろん、それらを無駄に使うことはありませんが、不用な制約を受けないのはストレスがなく快適でした。
タバコの後始末と、シュレッダー
配属されて1年目は、様々な雑務が待っています。ぼくの頃は署内に1箇所だけ喫煙所がありましたが、昔は机でタバコが吸えたそうです。ぼくの隣りにいた上席の女性は、若い頃は一日中灰皿を洗っていたと言っていました。
あんなに勉強して公務員試験を突破したのに、やることがおじさんの吸ったタバコの後始末だなんて、かわいそうです。衣服に匂いもつくでしょうし、やりがいもない。離職率が高いのもうなずけます。
でも、ぼくの入った頃はそんなことはなくて、下働きはせいぜい書類のシュレッダーくらい。連調官に頼まれて、毎日10分ほどシュレッダーと対峙します。どんだけ印刷ミスするんだよ、とは思いつつも、何も考えずに断裁しているだけでお金がもらえるなんて、こんな楽なことはないと少し思いました。
むかし『こち亀』で、両さんが公園前派出所から異動になり、地方の交番勤務になって鳥とか馬の世話ばかりしていたときに「動物の世話して金がもらえる。こんな楽なことはない」と言っていたのを思い出しました。
実際には、動物の世話は大変なのでしょうが、両さんにとっては通常の警察の仕事より楽に感じる業務だったのだと推察されます。警察官と国税局職員といえば、市民から嫌われる2大公務員です。文句を言わない動物の世話をするほうが良いと考える職員がいるかもしれません。
上司の机を拭く文化
そんなことに思いを馳せながら、シュレッダーをしたり、机を拭いたりしていました。当時の国税局には、上司の机を拭く文化があったのです。今はどうなんでしょうか。3年くらい上の先輩たちは「悪しき文化」だと反旗を翻して拒否していましたが、ぼくは掃除が好きなので拭いていました。
たまに、統括がぼくより早く来ることがあります。そういうときは机を触るのが憚られたので放置します。すると、拭いてほしそうな目でこっちを見ています。そんなに机が汚れるとも思えないのですが、それで気持ちよく仕事をしてくれるなら、机ぐらいいくらでも綺麗にします。
机をピカピカにした後に、コーヒーを淹れてみたことがあります。好きかどうかは分からないけれど、もしかしたら喜ぶかもしれない。半日くらいはニコニコしているかもしれない。ぼくはリターンを得るためにリスクを取ります。
でも、ドリップコーヒーはみんなでお金を出して粉をまとめ買いしていて、1杯50円徴収されるんです。「お前は俺に50円払わせるのか」と怒らせてしまいました。
少ないお小遣いで生活しているのでしょうか。コーヒーは飲んでくれましたが、その日の飲み会でも、他部門の統括官にタレコんでいました。