さんきゅう倉田

さんきゅう倉田

KSK2で税務調査はどう変わるのか

国税庁が次世代システム「KSK2」を導入し、税務調査を大きく変えようとしている。従来は調査官の経験や勘に依存していた部分が多かったが、今後はAIとビッグデータ分析によって「誰を調査するか」「どこを疑うか」がより精密になる。

KSKとはもともと、全国の税務署や国税局をネットワーク化し、申告・納税・調査情報を管理するシステムだ。KSK2では、そこにAI分析や外部データ連携が加わることで、税務調査の効率と精度が一段引き上げられる。

特に大きいのは、「人が怪しいと思った先を調べる」時代から、「AIが異常値を検知して調査対象を抽出する」時代への変化である。

AIによる「調査先の選定」

税務調査は、まず「どの納税者を調べるか」を決めるところから始まる。従来もシステム分析は使われていたが、KSK2ではAIが大量データを横断分析し、不自然な数値を自動検知する。

例えば、次のようなケースはAIが優先的に抽出するとみられている。

国税庁は、AIを活用した調査選定により、法人税・消費税の追徴税額が約3400億円、所得税の追徴税額が約1400億円となり、いずれも高水準になったと説明している。つまり、「調査件数を増やす」のではなく、「当たり率を高める」方向に変わっている。

税務調査の種類も変化

最近増えているのが、「簡易な接触」と呼ばれる調査だ。電話、文書、メール、来署依頼などで確認を行う、比較的軽い調査である。

「この経費の内容を教えてください」「売上計上時期を確認したい」といった問い合わせが中心で、必ずしも本格的な実地調査には発展しない。

コロナ禍以降、この方式が急増した。令和6事務年度では、実地調査約4.6万件に対し、簡易な接触は約6.8万件に達している。AIによって怪しいポイントが絞られるため、まずは軽い接触で確認し、必要なら本格調査へ進む流れが強まっている。

一方、実地調査はいわゆる「税務署が会社や自宅に来る調査」である。事前に電話で日程調整されるケースが多く、これを俗に「調査の予約」という。

以前は紙資料中心だったが、現在は会計ソフトデータ、電子帳簿、クレジットカード履歴、キャッシュレス決済履歴、クラウド会計データなど、デジタル資料の確認が増えている。KSK2では調査官が現場から端末でシステムへアクセスでき、必要な情報をその場で確認できるようになるとされる。つまり、「後日確認します」が減り、現場で即座に深掘りされる可能性が高まる。

「雑談型調査」から「データ検証型調査」へ

以前の税務調査では、調査官との会話や空気感から問題点を探る側面も強かった。しかしAI時代は、「この数値の根拠を説明してください」というピンポイント型が増える。

AIが検知した部分を直接確認されやすい。つまり、「なんとなく怪しい」ではなく、「ここが異常」という調査になる。

資料収集の方法も高度化

税務署は従来から広範な資料収集権限を持っている。KSK2では、その情報連携がさらに強化される。銀行口座、クレジットカード、証券会社、不動産情報、支払調書、電子取引データ、インボイス情報などが主な収集対象だ。

特に電子帳簿保存法への対応により、「データで残っているか」が重要になっている。紙がなくても、メールやPDF、クラウド履歴から確認される時代になった。

飲食店などで行われることがあるのが「内観調査(内偵調査)」だ。調査官が客として来店し、実際の客数、レジ処理、伝票管理、店舗の混雑状況などを確認する。売上除外の疑いがある場合、事前に来店して実態を把握するケースもあるとされる。

税務調査で特に重視されるのが銀行口座である。税務署は必要に応じて金融機関へ照会し、入出金履歴、振込先、資金移動、家族口座との関係などを確認する。KSK2では税目横断で情報連携が進むため、「法人では赤字なのに、代表者個人には多額入金がある」といった不整合も把握しやすくなる。

調査後に行われること

申告漏れなどが確認されると、「修正申告」を求められる。納税者が自主的に修正する形式だが、実際には調査結果を受けて提出するケースが多い。

申告漏れがあった場合には過少申告加算税が課される。通常は追加税額の10%程度、一定額を超える部分は15%が加算される。ミスに近いケースでも発生する。

より悪質と判断された場合に課されるのが重加算税だ。売上除外、架空経費、二重帳簿、仮装隠蔽などが対象で、税率は35%から40%と重く、事実上「脱税ペナルティ」の位置づけである。AI時代では、データ矛盾が残りやすいため、隠蔽工作は以前より発見されやすくなる可能性がある。

調査終盤で重要になるのが「質問応答記録書」だ。調査官が質問し、納税者がどう回答したかを文書化したもので、売上除外を認識していたか、経費が私的利用と分かっていたか、誰の指示だったか、といったことが記録される。後から争いになった際の重要証拠になるため、内容確認は極めて重要である。軽い気持ちで署名すると、不利な証拠として扱われる場合もある。

KSK2時代の税務調査は「説明力」が重要

今後の税務調査では、「隠せるか」ではなく「合理的に説明できるか」がより重要になる。AIは異常値を見つけるのは得意だが、「なぜそうなったか」の最終判断は人間が行う。

だからこそ、記帳の整合性、証憑保存、資金移動の説明、私費と経費の区分、データ管理が重要になる。KSK2によって、税務調査は経験と勘の世界から、データ検証の世界へ移行しつつある。

参考:辻・本郷税理士法人「令和8年秋に導入される国税庁の次世代システム『KSK2』で税務調査はどう変わる?」、財務改善ナビ「KSK2で税務調査はどう変わる?」、株式会社コラボ「KSK2とは?」、かなえ経営「国税庁の新システム『KSK2』とは?」、寺田税理士・社労士事務所「KSK2が税務調査を変える」

講演依頼はこちら

税務調査の現場や税務行政について、法人会、税理士会、商工会議所、青年会議所、医師会、労働組合、社内研修などでお話ししています。

講演メニューを見る

連載・記事の一覧へ →